臓器移植を受けた患者が、ドナーの記憶や性格、趣向などを受け継ぐ“セルラーメモリー(細胞記憶)”現象は、医学的には認められてはいないが、これまで多くのドラマや映画でモチーフとされてきて、フィクションの世界では人気素材の一つとなっている。本作『純情に惚れる』では、ヒロインの婚約者の心臓を移植された主人公が元の性格とはまったく違うタイプで、亡き主人公を思わせる人物となっていき、いつの間にかヒロインを愛するようになる、という設定で効果的にこの現象が使われている。温かな愛情とは無縁だった主人公が“純情”なヒロインとの出会いによって、優しい人間へと徐々に変化していく姿が心に響く。さらに、彼女への愛が自分の真実の感情なのか、単にドナーの記憶によるものなのか葛藤する姿がストーリーを盛り上げる。時にコミカルに時に切なく綴られていく、彼らのロマンチックな恋模様はヒーリング効果十分。心癒されるとともに、温かな気持ちに包まれる。
主人公ミノ役にはドラマ・映画で活躍するチョン・ギョンホ。硬派でハードな役柄が続いていた彼が、本作ではコミカルな演技を披露しているのが見もの。クールで非情な性格だったミノが、心臓移植を受けたことによって、正義感が強く大らかで優しいドナーのドンウクが乗り移ったかのようなキャラクターへと変貌。思いもよらなかった行動をとってあたふたし、スンジョンへの想いに戸惑ったり、自分の気持ちを疑ったりといった微妙な感情を巧みに表現している。ヒロインのスンジョンに扮したキム・ソヨンも、仕事では隙がないが、プライベートでは役名通り“純情”で可愛らしい女性を自然な演技で見せて魅力的。ほかに、スンジョンに想いを寄せながらも叶わず、野望のために悪に手を染めていくジュニを、私生活ではチョン・ギョンホの親友でもあるユン・ヒョンミンが好演した。また、ドンウク役でチン・グが特別出演し、出番は短いながら大きな意味のある役柄で存在感を見せつけている。
一筋縄ではいかないミノとスンジョンの恋。2人の間にはスンジョンの亡き婚約者ドンウクの存在がつきまとい、その仲は近づいたと思ったらまた遠ざかるの繰り返し。彼らのロマンスがどう発展していくのかにやきもきさせられ、笑わされてホロリとさせられる。だが、このドラマが面白いのはそれだけではない。ドンウクの死の真相が暴かれていく過程や、彼を裏切ったジュニの悪事がエスカレートしていく様子などサスペンス部分も興味深いところ。さらに、会社乗っ取りを巡る攻防戦がスリリングに描かれ、緊張感を高めていく。そして、スンジョンとの愛に目覚めたミノが、自分の過去の過ちに気づいて成長していく姿も感動的だ。こうした多彩な要素をうまく絡めたストーリーが視聴者の間で「本当の幸せについてしみじみ考えさせてくれるドラマ」と人気を呼んで、韓国ではネットユーザーの星取り評価でほぼ全員が5つ星を付け、10点満点中平均9.8点を獲得するほど高く評価された。
コミカルなタッチのラブストーリーを主軸に、殺人事件や企業内のパワーゲームがバランスよく描かれ最後まで飽きさせない。『ぶどう畑のあの男』などの補助作家や単発物を手がけてきた脚本のユ・ヒギョンが見事な構成力を見せている。彼女の秀逸な脚本を、登場人物一人ひとりに寄り添った温かな視点で演出したのはチ・ヨンス監督。これまで『お嬢様をお願い!』でワガママ令嬢と彼女の執事となった男のキュートなラブコメを、『ビッグマン』では底辺に生きる男の痛快な復讐劇を描いて好評を得てきた。緩急のリズムが巧みな演出によって、シリアスな部分とコミカルな部分とがうまく融合されて、味わい深い作品へと仕上がっている。また、印象的なオープニング曲『パラダイス』もドラマを彩った。『紳士の品格』のOSTや、神話(SHINHWA)はじめ多くの歌手への楽曲提供で知られるシンガーソングライターDAVINKが自ら歌った曲は、一度聴いたら忘れられない素敵な一曲。
ヘルミアの法務チーム長で最年少の役員。父はヘルミアの工場の警備員。苦学したが、ヘルミアの奨学金を受けて司法試験に合格した優秀な人物。スンジョン、ドンウクとは昔からの友人。秘かにスンジョンに想いを寄せている。
ユンヒョンミン
1985年4月15日生まれ。プロ野球選手だったが俳優に転身。10年、ミュージカルでデビュー。ドラマの脇役でキャリアを積んだ。主なドラマに『ハートレスシティ〜無情都市』(13)『感激時代〜闘神の誕生』『恋愛の発見』(14)など。
大手金融グループ、ゴールドパートナーズの投資専門家。冷徹な企業ハンターとして知られる。亡き父の興した会社を買収しようとした矢先に倒れ、心臓移植手術を受ける。スンジョンを見ると胸がドキドキするようになって戸惑う。
チョン・ギョンホ
1983年8月31日生まれ。ドラマ監督を父に持ち、03年にKBS公開採用第20期タレントとなり、04年『ごめん、愛してる』で認知度を高めた。主なドラマに『幻の王女 チャミョンゴ』(09)『ハートレスシティ〜無情都市』(13)など。
大手化粧品会社ヘルミアの会長秘書。プロとしてプライドを持って仕事をする優秀な女性。結婚を約束していたドンウクを失って失意に陥る。ミノに指名されて彼の秘書となって、会社を救うために一緒に働くうち惹かれ合うように。
キム・ソヨン
1980年11月2日生まれ。中学生で芸能活動を始め、00年の『イヴのすべて』の悪女役で注目された。『大風水』(12)『TWO WEEKS』(13)『抱きしめたい〜ロマンスが必要〜』(14)などのドラマのほか、近年はバラエティでも活躍。
[脚本]ユ・ヒギョン
[演出]チ・ヨンス「お嬢様をお願い!」「ビッグマン」
発売・販売元:ポニーキャニオン
RENTAL[スペシャルエディション版]
全20話/各2話収録/全10巻
発売元:ポニーキャニオン
販売元:カルチュア・パブリッシャーズ